2013年10月25日金曜日

甲斐絹ミュージアムより #6 「今週の絵甲斐絹①/蝶と菊、竜田川模様、夕鶴」

「甲斐絹」は江戸~昭和初期、主に羽織りの裏地として作られた絹織物。

おそらく、古今東西の裏地テキスタイル界(広さがよくわからないけれど)を見回しても
王者の名にふさわしいに違いない存在、それが甲斐絹です。

なかでも織機上で経糸捺染するという

ほかに類を見ない製法の絵甲斐絹は、
裏地でありながら艶やかな色柄が描かれ、
多色の先染め糸や絣糸などの合わせ技で
薄手の平織りとは思えない奥行きが表現された、
山梨の誇る究極の絹織物です。

ここでは甲斐絹のアーカイブをWEB上のまとめた甲斐絹ミュージアムから、
その逸品たちを少しずつご紹介します。

新シリーズ、「今週の絵甲斐絹」スタートです!!



満開の菊の花と、蝶の舞う風景が交互にあらわれています。

菊の盛りは10月~11月で、秋から冬にかけての花。
一方の蝶は春から夏にかけての季節を表しますので、
秋と春とが、いっぺんに描かれていることになります。

春と秋が交互に巡る季節の移り変わりを表現したものでしょうか?
もしかすると春と秋、どちらにも着用できる
マルチシーズン裏地として企画されたものかもしれません。

ところで菊のボーダー部分には、緯糸に水色、黄色が使われて
ボーダーになっているのですが、
濃い地色のなかに白抜きの線画で菊の花、葉が描かれています。
これがどういうことかお分かりになるでしょうか?
 
つまり、この地色の部分は、緯糸の色だけでないわけです。
緯糸経糸捺染による地色の合わせ技で、ボーダーになっているのです。

経糸捺染と緯の色糸でのボーダー作り、これも目立たないながら、
絵甲斐絹ならではの技法です。


甲斐絹ミュージアム
E014 西暦 1913 年[ 大正 2 年] 南都留郡 
http://www.pref.yamanashi.jp/kaiki/kaiki_museum/kaiki-sample/e/e014.htm







ちょうど100年前(1913年)の作品。 
市松模様には経糸、緯糸それぞれの絣糸が重ねられています。
イラストレーターや、フォトショップではおなじみのレイヤー構造です。
 レイヤー①■(市松) 経糸の絣 
 レイヤー②★(紅葉) 経糸への捺染 
 レイヤー③■(市松) 緯糸の絣 
この3層が、薄ーい平織りの生地の中に重なることで、
不思議な立体感が生まれています。

柄としては、経糸捺染によるもみじの葉と、
藍の市松を水面にみたてた、一種の竜田川模様でしょうか。 
シンプルながら、迫力のある構図、大胆な抽象化で
奥行き感や深みを感じさせる作品です。


甲斐絹ミュージアム 
E008 絵甲斐絹 西暦 1913 年[ 大正 2 年] 南都留郡 
http://www.pref.yamanashi.jp/kaiki/kaiki_museum/kaiki-sample/e/e008.htm




鶴の文様が大胆にあしらわれた作品。 
茜色の絣模様は、夕焼け空でしょうか。 

タテヨコの格子縞は、経に矢鱈縞、緯に規則的な縞、と変化に富んで重なり、
茜の絣と鶴とあわせて、絵甲斐絹独特の奥行き感のある重層的な表現になっています。

鶴は、山梨県の都留(都留市、南都留郡、北都留郡)の名の由来ともされ、
甲斐絹との縁もあるモチーフです。

※一説によると、その昔、秦の始皇帝の命で不老長寿の薬を探しに
富士の麓へ訪れた「徐福」がこの地に留まり織物の技術を伝えたと言われます。
そしてその死後もこの地を舞う鶴になったとされ、都留郡という地名の元になった、
という説があります。


甲斐絹ミュージアム
E079 絵甲斐絹 西暦 1910 年[ 明治 43 年] 南都留郡 
http://www.pref.yamanashi.jp/kaiki/kaiki_museum/kaiki-sample/e/e079.htm





(五十嵐)