2015年11月25日水曜日

ヤマナシハタオリ産地バスツアー20 NOV 2015 開催しました!

2015年11月20日(金)、今年度3回目、通算15回目となる『ヤマナシハタオリ産地バスツアー20 NOV 2015』を開催しました!

今回のテーマは『服地 + Plus』




服地を切り口にドレスオーガニックコットンネクタイというそれぞれの得意技を持った4軒のハタヤさんをめぐるツアーです。

そして今回も、『ヤマナシ産地テキスタイルエキシビション』の第3弾を開催!

見学先を含めて11軒のハタヤさんが出展するミニ展示会を、富士吉田市内で開催しました。


新宿西口の出発地点から、シケンジョの五十嵐、シケンジョの家安客員研究員がバスに乗り込んでヤマナシ産地へ向かいます。

バスの中では、恒例のガイドブック(写真下)で織物工場や織物産地の基礎を学ぶ、バス内レクチャーが行われます。
工場を見るのが初めての方でも、シャットル、レピア、ジャカード、ドビー、という織物用語をマスターした状態で産地に降り立つことができるようにと作られたガイドです。




今回は新たに、エキシビション会場の周辺マップも追加しました。かつて織物が全盛期のころに賑わいを極めた、昭和の雰囲気あふれる街の魅力も味わってもらおうという試みです。


最初の訪問先は、宮下織物(株)
ウェディングドレス、フォーマルドレスや舞台衣装など、ステージを彩る華麗なテキスタイルを得意とするハタヤさんです。



宮下昇治社長のお話しからスタート。
50年ほど前、チャイナドレスやチョゴリに使われる緞子
(どんす)の生産から、
いちはやくウェディングドレスに転換し、ドレスや舞台衣装に特化して
成長していった物語を伺います。



半世紀前の工芸品のような緞子生地に見とれる参加者のみなさん。




下の写真は、宮下織物のストックルーム。

無数の反物が林立する風景は、まるでテキスタイルの森です。




宮下織物では、過去のテキスタイルが通し番号で管理され、
どの生地も製造スペックがすぐわかり、生産に入れる状態です。
50年前に企画した生地がまだ現役で流通しているとか。







小ロットでの販売も可能なストック生地もたくさん。




さて問題です。

下の白いサテン生地は、①絹100%、②絹+ポリエステル、③ポリエステル100%、の3種類。

どれがどれだか分かりますか?




答え: 左から  ①絹100%、②絹+ポリエステル、③ポリエステル100%

この写真では違いが分からないかも知れませんが、直接見て触ってみれば分かるはず。

どれも素晴らしいサテンですが、シルク100%はやはり上品な光沢がありました。



宮下織物さんでは、生地の検反をする専門職人がいます。

織ったあとに、×2回×2回
整理加工したあとにも×2回×2回
表と裏を合わせて、1枚の生地につき全8回(!)の検反をしてから出荷するという、
念入りな品質管理を行っているそうです。



検反作業では、汚れを落としたり、キズがあれば直したりという作業をします。
汚れやキズの種類に応じた適切な処置が必要な、難しい仕事です。
出荷された生地を見ただけでは分からない熟練職人の技術が織物づくりを支えているんですね。





そして2階の企画室。

テキスタイルデザイナーの宮下珠樹さんが、手描きのデザインに始まって、それを加工し、織機を動かすデジタルデータにするまでのデザインプロセスを一貫し担っています。




使用する織り組織が番号で管理されたサンプル。
宮下織物の生地は、たくさんの組織を駆使して作られていることが分かります。







2軒目の訪問先は、(株)前田源商店



オーガニックコットンに早くから取り組み、近年は衣料品やライフスタイル雑貨の自社ブランド、『Kai's organic products』を立ち上げて幅広く活躍しています。
今年の3月に都内で行われた展示会の様子はこちらからどうぞ。



(株)前田源商店の社長、前田市郎さんが手を伸ばしているのは、
産地でもあまりないという大きなサイズの検反機。



(株)前田源商店の2トップは、前田市郎さん(兄)(写真上)前田富男さん(弟)(写真下)
ご兄弟で会社を運営されています。






上の写真では、同じ経糸を使って、どれだけ違う風合いの生地が織れるか、
サンプル生地を触って違いを体験しているところです。
同じ経糸で様々な生地を作る技術により、小ロット、多品種、短納期が実現できるわけです。


下の写真は、生地のショールームの生地張りの壁。
年月を経てかわいいモサモサが生まれています。




つぎの目的地は、昼食のうどん屋さん。
路地を歩いて向かいます。



参加者のみなさんは、あちこちに流れる水路に気づいたことでしょう。

下の写真では、上の水路と下の水路が、滝で結ばれている風景。



昼食会場、「みうらうどん」。

かつての織物工場のまかない食としても知られる、産地と縁のある「吉田のうどん」です。



そして午後最初の訪問先は、(株)前田源商店の賃機(ちんばた)さん。

(株)前田源商店には、自社工場がありません。

前田さんのように自社工場を持たないハタヤさんは、
下請け工場、「賃機」織物をつくります。

ヤマナシ産地では、前田さんのようなハタヤさんのことを
「テーブル機屋(ばたや)と呼ぶことがあります。

下請け工場に仕事を出すハタヤさんは「親機(おやばた)とも呼びますが、
「親機」には自社工場を持っている場合も含まれます。
「テーブル機屋」は、「親機」のうち、自社工場を持たないハタヤさんであると言っていいでしょう。

ただし、全国の産地では、それぞれ違う呼び方をしている場合もあるようです。




職人さん一人で回している小さな工場にある織機は4台。
ヤマナシ産地の賃機さんは、だいたい一軒で4台前後の織機を動かしています。

こんなに大勢の人が工場に入ったのは初めてのことかもしれません。










無数のホコリが積もっている工場の天井(上の写真)

こうしたホコリは短繊維のコットンで織っている工場ならではのことで、
長繊維を織っているところが多いヤマナシの工場では、あまり見られません。

長い時間を経てつくりだされた鍾乳石のような造形美がなんともいい味を出しています。




長い時間といえば、織物工場にはよく古いカレンダーが掛かっています。

上の写真のカレンダーは、女優の岡田茉莉子さん。

年号が写っていませんが、曜日から推定すると1961年のカレンダー。
いまからなんと54年前!!




3軒目は、こちらもバスツアーでは初めての訪問となる(株)川栄

ネクタイを主力としながら、服地にもその技術、センスを注ぎ込み、世界を股にかけてアグレッシブに活躍しています。

世界といえば、
今回訪問する宮下織物(株)、(株)前田源商店、(株)川栄、(株)槙田商店は、いずれも海外市場を目指し、
9月にはイタリアのミラノで開催された国際的な生地見本市「ミラノウニカ」に出展して好評を得て、
いまは来年2月の出展に向けた準備をしているところです。






40年前からのアーカイブを収めた資料室で説明をしてくれているのは、
(株)川栄の後継者のひとり、川村武史さん(写真上)
営業担当として、イタリア、フランスなどのブランドへの販路開拓を任されている方。


下の写真で参加者に説明しているのは、(株)川栄の社長、川村昌洋さん

(株)川栄は、長男の川村昌洋さんを筆頭に、次男の英之さん、三男の武史さんの
三兄弟が中心となって会社を動かしています。




この部屋で見せてもらったのは、(株)川栄が収集してきた約100年前のネクタイ生地サンプル。
(写真下)

コンピュータもない時代、職人が手作りで織物用の意匠図を描いていたことを考えると
信じられないような複雑さと美しさです。

最先端の高速織機を導入している(株)川栄では、
上の写真のような手作りの職人技の良さを忘れることなく、
最新技術と手作りの良さの両立を目指している、と川村社長は熱く語ってくれました。



ヤマナシ産地は糸を染めてからジャカード織りで柄を出すネクタイ生地がほとんどすべてですが、
(株)川栄では大型のインクジェットプリンターを導入し、
プリントもののネクタイとの競合対策にも取り組んでいます。

下の写真は、そのプリンタが設置された部屋で、様々な生地を見ながらのレクチャー風景。


ジャカードとプリントの良さを組み合わせたもの、
糸の染めで他社に真似のできない工夫をしたものなど…。



…ため息の出るような美しい生地の数々。




そして、(株)川栄をあとにした一行は、
西桂町の中心を流れる桂川を渡り、今回最後の工場へ。




桂川は、この西桂町で水量が一気に増します。
富士山からの伏流水がここで地表に現れるそうです。




そしてここは、(株)槙田商店

「傘地」と「服地」の二つの事業部があり、
それぞれ槇田洋一さん(兄)、槇田哲也さん(弟)の兄弟が担当しています。

下の写真は、傘生地の裁断工程を説明する高尾宜明さん。

過去に槙田商店を訪問したこれまでのツアーでこの工程を実演してくれたのは
ベテランの幡野さん過去のレポート参照)でしたが、
今回は若手の高尾さんが幡野さんのあとを継いで、切れ味鋭い技を見せてくれました。

(幡野さんは、そのあとの検反の実演をしてくれました)


傘はここで三角形の型(上の写真でテーブルに置いてある木製の道具)を使って
傘の小間(こま=△型の生地)に切断されます。

切断された小間を縫製するためには
縫製部分にも伸縮性が求められるため、
「上糸」しかないミシンが使われます。








職人の手作業を経てできあがる傘を手にする参加者のみなさん。
下の写真で広げているのは、野菜をモチーフにした日傘、
「菜 -sai-」シリーズの「えのき」モデル。

この「菜」シリーズは、なんと、H27年度やまなし産業大賞の「ものづくり大賞」部門、
優秀賞を受賞!
このバスツアーの前日に表彰式が行われたばかりです。




そして傘生地を織っている工場へ。



(株)槙田商店には、こうした高速の大型織機を備えた工場建屋が3棟あり、それぞれに6000口、12000口などの大型ジャカードが設置されています。

 ※6000口→ 経糸6000本分のジャカード柄を織れる織機






下の写真にあるイカのロボットのような部品は、経糸を動かすためのパーツです。
イカの脚にあたるヒモ1本1本が、経糸1本を動かす操り糸につながっています。









そして工場訪問を終えた一行は、
三つ峠駅でバスと合流し、最後の訪問先へ。


この日はあいにくの曇り空で富士山は見えませんでしたが、

歩いていく途中、こんなところに富士山がありました。



三つ峠駅前の看板。

歴史が伝わる看板です。





最後の訪問先は、ふたたび富士吉田市内に戻り、
『ヤマナシ産地テキスタイルエキシビション』会場。

バスツアーで訪問する4社だけでなく、もっとたくさんのハタヤさんとの出会いを作りたいと思い
企画したこのミニ展示会。

富士吉田市街のコミュニティカフェ「リトルロボット」「サルヤ」(hostel and salon saruya)で開催するのは、先月に続いて2回目です。

参加してくれた企業さんは次のとおり。


 宮下織物(株)   ★訪問先
 (株)前田源商店  ★訪問先
 (株)川栄      ★訪問先
 (株)槙田商店   ★訪問先
 (株)アルル
 (株)オヤマダ
 (株)エルトップ
 (有)テンジン
 富士新幸(株)

 山崎織物(株)
 山梨県織物整理(株) 


こちらが会場のリトルロボットのエントランスです。


こちらはサルヤのエントランス。



二つの会場は、こんなレトロな商店街の一角に並んでいます。





会場の中を見てみましょう。








ホステル「サルヤ」のエントランスロビーに所狭しとおかれた生地サンプル。


こちらの男性(写真下)は、 サルヤを作った仕掛け人の一人、赤松智志さん
地域おこし協力隊の隊員として3年前に富士吉田に移住し、
街のなかにたくさん眠っている「空き家」を、街を活性化させるカギとして活用する
「アキナイ」プロジェクトを進めています。
このサルヤも空き家を改装して作られ、街の新陳代謝を促す空間、
街の玄関」としての役割を持ったゲストハウスとしてこの夏に誕生しました。



そしてこちらは、リトルロボットの会場。
リトルロボットはサルヤ同様、今年の7月にオープンしました。

コミュニティカフェとして、さまざまなイベントに使われるスペースとして賑わっています。
名前を略して「リトロボ」と呼ばれていますが、リトルロボットの語源はイタリア語の「ritrovo」(リトローヴォ=たまり場)という意味もあるそうです。














エキシビションが終わる17時15分から、会場は情報交換会に向けて改装されます。
そのあいだ、何人かのバスツアー参加者は、冒頭に紹介した周辺マップを片手に、
街の散策に出かけていたようです。


周辺の街の様子を、写真で少しだけご紹介しましょう。

この風景を眺めて歩くだけでも楽しめそうなエリアです。

(写真は事前に撮影したものです)














そして17時半からは、立食形式の情報交換会。
バスツアー18名、産地のハタヤさんたち十数名が一堂に会しての交流の時間。
山梨県絹人繊織物工業組合の主催にて行われました。




エキシビションに参加できず、情報交換会から飛び入りのハタヤさんも何人か来てくれました。




そして最後の記念撮影。
ほとんどが今日初めて会った人同士とは思えません。






中にはさっそく、ハタヤさん何軒かに再訪問を決めた方もいるそうです。

今後、これを契機に新しいビジネスの芽が生まれ、育っていくことことを願ってやみません。





おかげさまで今回のバスツアーも無事に開催することができました。

協力してくれたハタヤさん、関係者のみなさん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

今年のバスツアーはこれで3回分が終わり、次は来年初夏くらいの予定です。

ヤマナシ産地を見て、体験して、交流したい方、ぜひお申し込みください!



(五十嵐)